1. 始まりと出発と出会いと
昔々。て言ってもそんなに昔じゃないけどまぁあえて決めるなら昔かなぁ? ぐらい昔々。
どこなのか、すごく決め辛い微妙なところに、フラガおじいさんとマリューおばあさんがいました。
フラガおじいさんは芝刈りと称してナンパしに、マリューおばあさんは洗濯と見せかけて現行犯逮捕を目論んでいました。
その尾行の途中。
川上から大きなピンクの球体が、どんぶらこと流れてくるのを見ました。
見ただけでした。
『ナンデヤネン!』
なんだかついて来そうな気配に、マリューおばあさんはその大きなピンクの球体を拾い上げました。
「これは何かしら?」
叩いてもよくわかりません。
とりあえず珍しかったので、
「おじいさんにも見せてあげましょう」
と、家へ転がして帰りました。
「うわっ」
フラガおじいさんの帰宅第一声はそれでした。
「何コレ? うっわー目に痛い色だねー」
と言いながら、それを叩きました。
その時、変なボタンか何かを押したのか、
『毎度!』
と、大きなピンクの球体が二等分にぱっかりと割れてしまいました。
その突然の出来事も気になりますが、ひしと感じるマリューおばあさんの視線も気になるところです。まぁ、おそらくきっと服に付いた甘い香水の匂いのせいでしょう。
「あ」
フラガおじいさんは割れた球体の中に、ピンク色の毛玉を見付けました。
拾い上げてみると、それは小さな赤ん坊でした。
「まぁ」
マリューおばあさんは赤ん坊を奪うように抱きました。
「これは神様が私達に下さったのだわ」
どこか棒読みです。
マリューおばあさんはにっこりと微笑みました。
「私達で育てましょう。いいですね?」
フラガおじいさんは「はい」としか言えませんでした。
そして、その赤ん坊は勘で「ラクス桃太郎」と名付けられました。
ラクス桃太郎は二人の愛情を一身に受け、すくすくと育ちました。
そしてある日。
「一攫千金を狙おうと思いますの」
と、鬼ヶ島に行く事を、フラガおじいさんとマリューおばあさんに告げました。
当然、二人は驚いて、それを止めようとしました。
しかし、こいつならやりかねない、ていうか絶対やれそうだとも思い、仕方なく行く事を許しました。
「無事に帰ってきてね」
「もちろんですわ」
「これ、餞別になるかどうかだけど……」
言って、マリューおばあさんは真顔でキラだんごを差し出しました。
後ろでフラガおじいさんが必死で笑いをこらえています。
無視です。
「ありがとうございます」
ラクス桃太郎は微笑んで、キラだんごの紐を受け取りました。
「それでは行って参りますわ」
「気を付けて」
二人に優しく見送られて、ラクス桃太郎はキラだんごを連れて旅に出ました。
その途中。
「キラをくれ」
「嫌ですわ」
なんだかとっても偉そうなアスラン犬に出会いました。
隙を見せれば、今にでもキラだんごを奪って逃げて行きそうです。
「けれど」
ラクス桃太郎は一つ提案しました。
「一緒に鬼ヶ島へ鬼退治に行って下さいますなら、このキラだんご、好きにしても構いませんわ」
「行こう。ぜひ行かせてもらおう」
即答でした。
ラクス桃太郎は、にやりと笑いました。
そして、アスラン犬がお供になりました。
「かわいーの連れてんじゃん」
「あげませんわよ」
すごく軟派な感じのディアッカ猿に出会いました。
隙を見せれば、今にでもキラだんごにちょっかいを出しそうです。
「けれど」
ラクス桃太郎は一つ提案しました。
「一緒に鬼ヶ島へ鬼退治に行って下さいますなら、このキラだんご、好きにしても構いませんわ」
「じゃあ行こっかな」
アスラン犬が睨むのを無視して、ディアッカ猿は言いました。
ラクス桃太郎は、にやりと笑いました。
そして、ディアッカ猿もお供になりました。
『トリィ』
「まぁ」
どこかから飛んできたトリィ雉に出会いました。
トリィ雉はキラだんごの肩に止まると、小さく首を傾げました。
「あなたも鬼ヶ島へ退治に行きますか?」
『トリィ』
なんとなく勘で「はい」と言ってるのだと考えました。
そして、トリィ雉もお供になりました。
しばらく歩いて、海に出ました。
しかし、ここで問題が一つ浮上しました。
「船がありませんわ」
鬼ヶ島は海の向こうなので、船がなければ渡れません。
ラクス桃太郎とお供たちは困ってしまいました。
その時。
「お嬢さん達、乗ってくかい?」
隻眼のアンディ漁師が申し出ました。
「けれど、お礼も何もできませんわ」
「鬼を退治してくれるなら俺達も助かるってもんさ」
言ってアンディ漁師はすごく爽やかに笑いました。
「なら、お願いしますわ」
そして、ラクス桃太郎一行は、アンディ漁師の船に乗って行く事にしました。
2. 鬼と門番と鬼退治と
「不気味ですわね」
鬼ヶ島は鬼の住み家なだけあって、暗雲を抱えた岩の島でした。
空を飛ぶ鳥もカラスばかりです。
ラクス桃太郎一行はアンディ漁師に別れを告げて、島の中へと入って行きました。
この時点で鬼の船を奪って帰る気満々なのでしょう。
不毛の地を歩いていると、
「何だ貴様らは!」
とりあえず鬼一匹目の、イザーク鬼に会いました。
不躾に人を指で差す辺り、まさに鬼な感じです。
なんか相手にするのも面倒そうなので、ラクス桃太郎は、
「ディアッカ、行け」
と、ディアッカ猿に、むしろ命令しました。
ディアッカ猿はしょうがないので、一人でイザーク鬼の前に行きました。
「とりあえず、負けてくんない?」
「できるか! まさか貴様ら鬼退治なんぞと!?」
「まぁ一応ねぇ」
「ならばなおさら!」
イザーク鬼はすごく似合わない棍棒を振り上げました。
「うわっ」
すんでで避けました。
もう一度振り下ろそうとするのを、ディアッカ猿はその手首を捕えて止めました。
「話し合いでどうにかなんない?」
「なるわけっ……おいっどこ触って!?」
「だって話聞かないから」
「やめっ」
イザーク鬼は逃げようとしましたが、手首を掴まれているため、それもできません。
貞操の危機です。
ディアッカ猿はすごく楽しそうです。
その様子を冷静に眺めながら、ラクス桃太郎は言いました。
「先に行きますわ」
「あぁ、うん。ここは任せて」
「えぇ」
そして、ディアッカ猿を残して、ラクス桃太郎一行は先へ進みました。
その途中。
「これ以上先へは行かせません!」
鬼二匹目のニコル鬼に出会いました。
道を通せんぼしてますが、一人だけなので結構ガラ空きです。
「アスラン、任せましたよ」
「なんで俺が」
すごく嫌そうです。
ラクス桃太郎は、はぁと息を吐きました。
「ここで頑張ったらキラだんごにコスプレのオプションを」
「ぜひ任せていただこう」
即答でした。
アスラン犬はニコル鬼の前に行きました。
「先を急いでいるんだ」
「駄目です! 通しません!」
なんだか一生懸命な感じが可愛らしいです。
攻撃するのもかわいそうなので、アスラン犬は最上級の微笑みで言いました。
「通してくれないかな?」
「はい」
即効でした。
そして、ニコル鬼も難なくクリアして、ラクス桃太郎一行は先へ進みました。
しばらくして、おそらく鬼の居城と思われるところの門前に着きました。
無意味に大きな、たぶん鉄の門です。
その前に。
「ここから先へは行かせへんでぇ」
「行かせないよぅ」
漫才師風の立ち位置の、ミゲル鬼とラスティ鬼がいました。
おそらくボケとツッコミなのでしょう。
「通して下さいませんか?」
「それはできひんなぁ」
「その奥に誰かいるのですか?」
「そんな事はないよ」
「そうそう。鬼の頭領なんておらへんよ」
「って教えてんじゃん!」
「しまったぁ!」
なんだか面白そうなので、ラクス桃太郎はしばらく見物する事にしました。
「思わず……ちゃっかりバラしてしもた……」
「いや、ちゃっかりじゃなくて、うっかりでしょ」
「八兵衛かっ!!」
「違うから!」
なかなか鋭いツッコミです。
「八兵衛っていや、やっぱお銀よなぁ……」
「いいよねぇ。入浴シーンとか……」
「いいなぁ……」
少しの沈黙。
の後に。
「って今チャンスやったやん!?」
「門ガラ空きだったでしょ!?」
「なんで逃がすねん!!」
明らかに理不尽な事を言われました。
でもまぁ、面白いので無視です。
そして、そうこうしている内に。
「……くっネタ切れやっ」
「負けたよ…」
いつの間にか、ミゲル鬼とラスティ鬼は疲れてしまったようで、二人はその場にへたり込みました。
「あらまぁ」
ラクス桃太郎は残念そうに言いました。
「もう、終わりですの?」
さり気ない言葉の攻撃です。
ガックリうなだれる鬼達を横目に、十分な休憩を済ませたラクス桃太郎一行は、再び先へ進むことにしました。
その途中。
「所詮三流ですわね」
トドメを刺しておきました。
背中に、鬼達の悔し泣きを聞いた気がしました。
そんな気がするだけです。
.
3. 鬼の頭領と女王様とキラ様と
「さぁ鬼共、観念なさい!」
門の奥にあった扉を勢いよく開け放ちながら、ラクス桃太郎は言いました。
「えっ」
中にはクルーゼ鬼が一人、仮面のお手入れの真っ最中でした。
みみっちい作業がなんとも惨めです。
それをラクス桃太郎が見逃すはずもなく、
パシャッ ジ――……
どこから取り出したのか、インスタントカメラにその情けない姿を収めました。
続いて、
「トリィ、お行きなさい」
『トリィッ』
キラだんごの肩を離れて、トリィ雉はクルーゼ鬼の方へと飛んで行きました。
そして容赦なく、急いで仮面を着けたクルーゼ鬼の、その仮面を一点集中攻撃しました。
「いたっ痛いっやめっ」
パシャッ パシャッ
ラクス桃太郎も容赦ありません。
一通り撮り終わってから、ラクス桃太郎は大きく一息つきました。
充実感満点です。
「なかなかいい絵が撮れましたわ」
クルーゼ鬼は愕然とその場に膝をつきました。
「わ、私が何をしたと言うのだね……」
「人々に働いた悪事の数々、忘れたとは言わせませんわ」
「あ、悪事と言っても、畑から野菜を少々頂戴したりしただけだろう!?」
「……………はい?」
ラクス桃太郎はその笑顔を一瞬引きつらせました。
後ろでアスラン犬が冷静に分析します。
「広がるにつれて過剰に大げさになる。噂話の典型だな」
「……………つまり?」
「金銀財宝も何も、ここにはないという事だろう」
確認にクルーゼ鬼を見ると、クルーゼ鬼はこくこくと頷きました。
「…………………なっ」
今度はラクス桃太郎が地に膝をつきました。
信じられない、といった風です。
「なんという事ですの……わたくしの、わたくしの計画が……?」
と、その時。
「お待ちー、てなんか大変なコトになってる?」
ディアッカ猿が到着しました。
「大変というか、何というか……」
アスラン犬があきれてため息をつきます。
すると、それまで動かなかったキラだんごがラクス桃太郎の横にしゃがみ込んで、そっとその肩に手を置きました。
そして――
「貯金があるよ」
助言しました。
「貯金?」
こくりと頷きます。
ちら、とクルーゼ鬼を見ると、クルーゼ鬼は一気に青ざめて、すごい速さで首を横に振りました。
「トリィ、奥の台座が怪しいですわ」
「そ、そこはっ」
「そこですわね」
クルーゼ鬼の慌てように、ラクス桃太郎の目がきらりと光りました。
『トリィ』
一瞬台座の後ろに隠れたトリィが、一通の通帳と共に現れました。
「ああっ」
なんだかもうなきそうなクルーゼ鬼を無視して、それをラクス桃太郎に献上しました。
通帳を受け取ったラクス桃太郎は、パラパラと無言で中身を確かめてから、小さくにやりと笑いました。
結構な額だったのでしょう。
アスラン犬とディアッカ猿が哀れみの目でクルーゼ鬼を見ています。
クルーゼ鬼の表情には、すでに色なんてありません。
「それでは」
通帳を懐にしっかりとしまって、ラクス桃太郎はにっこりと微笑みました。
「ちょっとそこの銀行までお付き合い願いましょうか」
その時、鬼の悲鳴が聞こえたとか聞こえなかったとか。
4. 野望と正義と教訓と
「でもやっぱりちょっと足りないですわよねぇ」
新居の庭でくつろぎながら、ラクス桃太郎はため息をつきました。
そろばんを弾きながら、紙の上に簡単な計算を書き留めてゆきます。
「もう少し、期待していましたのに……」
目標にしていた一攫千金には程遠かったのでしょう。
「あの鬼達を使って、ホストクラブでも開きましょうか……」
悪くはない考えです。
そのための資金やらの計算を新たにしながら、ふとラクス桃太郎は後ろを振り返りました。
「アスラン、キラに触らないで下さいませんか?」
「なっ」
トリィと戯れていたキラだんごを、後ろから抱きしめようとしていたアスラン犬は、びくっと動きを止めました。
なんか見られたくない姿を見られたような気がして、恥ずかしいような気もしましたが、アスラン犬は咳を一つ払ってから抗議しました。
「キ、キラをくれると言ったのはそっちだろう」
「あげるとは言ってませんわ」
「好きにしていいと言っただろう!」
「ええ。そうできるのなら」
「……?」
疑問に思うアスラン犬をよそに、ラクス桃太郎は微笑んでキラだんごに尋ねました。
「キラはアスランがお好きですか?」
キラだんごは少し考えてから、こてんと頭を傾けました。
「だ、そうですわ」
「……まさか、好きにって……っ」
震えるアスラン犬に、ラクス桃太郎は微笑んだまま、
「すべてはアスランの努力次第という事ですわね」
穏やかに告げました。
してやったりです。
「こ、この、鬼……!!」
「あら」
ラクス桃太郎は頬に手を当てて、驚いた顔をしました。
「何を言ってますの?」
にこりと笑顔一つ。
「わたくし、正義の味方ですわよ?」
ところで、ディアッカ猿はどうしたかというと、ラクス桃太郎から分けてもらったお金を持って、途中で見付けた鬼が気に入ったとかで、鬼ヶ島に住みついたとかどうとか。
きっとラクス桃太郎のホストクラブ計画が無事に実行された時は、バーテンダー辺りで雇われるのでしょう。
「だ、だったらコスプレのオプションは……!」
「誰も『付ける』なんて言ってませんわ」
「くっ……!」
トリィと共に、ラクス桃太郎とアスラン犬の言い合いを見ながら、キラだんごはふと、日本語って難しいなぁと思いました。
めでたし めでたし ?