「だから!」
談話室の前を通りかかった時、シンの怒鳴り声が聞こえた。
驚きに立ち止まって中を覗く。
そこには、机に置かれたパネルを挟んで、シンとレイが睨み合っていた。
「こういう場合はこっちの方が効率いいだろ!?」
勢いのあるシンとは反対に、レイが落ち着いた声で言い返す。
「駄目だ。リスクが多い。この場合は……」
「ぃヤだよ。面倒くさい」
「シン……」
静かなため息。
その様子を見ながら、アスランは押さえた口元が緩むのを感じた。
――― まるで……
思い出すのは遠い日の記憶。
「キラ!」
かなり怒った声色に、キラは僅かに肩を竦ませた。
怯えた瞳で、今まさに自分を叱る人物を見上げる。
「なんでそういう無茶なシステムの組み方するんだ!?」
「だって、こっちの方が早いし……」
「でも、これだとすぐに綻びが出る。ショートして終わり。点もらえないぞ?」
「う……それはイヤだ」
「じゃあ、はい。最初から組み直し」
「ええぇ〜?」
「文句言わない」
言ってから、アスランは静かにため息をこぼした。
キラがまだぶちぶちと文句を呟く。
それを黙って見逃すアスランでもなく。
「キぃラ?」
当然再び説教体制に入った。
「わ、わかってるよ!」
「何を?」
「言われた通りにやればいいんでしょ」
拗ねたような言い方。
アスランはもう一度ため息をついて、それから静かに訂正した。
「そうじゃない。キラ、その通りにやるんじゃない」
「……?」
「ただ組み方に無茶があるというだけで、もっと工夫すればいいんだよ」
「工夫……」
「そう。早さだけじゃなくて、正確さも必要という事だ」
優しく、幼い子供に言い聞かせるように。
「そうすれば、キラのプログラムは最高傑作になる」
「本当!?」
褒められたと思ったのだろう、キラは嬉しそうに問うてきた。
まぁ、実際褒めたのだけれど。
その現金さに多少呆れながらも、アスランは微笑んでキラの頭を撫でた。
「あぁ。絶対に」
キラも嬉しそうに微笑みを浮かべる。
「じゃあ頑張る!」
その後、出来上がったプログラムの、幼年学校ではありえないレベルの高さに、先生達は皆驚きあがっていた。
思い出して、アスランは小さく笑った。
その間にも、シンとレイの睨み合いは続いている。
しかし、それもシンの盛大なため息と共に終わりを告げようとしていた。
……一体どちらが折れるのか。
シンは椅子に座り直すと、パネルを操作しながら、
「じゃあ、一応レイの考えたのをシュミレートして、それから俺のも試す。で、最後にどっちか決めよう」
「……効率が悪いな」
「俺のが思わずいいかもしれないだろ」
レイのため息。それから、小さく笑った。
「わかった。じゃあまず……」
同じパネルを一緒に操作しながら、ふとレイが戸口に立つアスランに気が付いた。
その視線にシンもすぐに気がつく。
「あっアスランさん!」
嬉しそうに名前を呼んでから、アスランの表情が驚きに満ちているのに気付き、僅かに怪訝そうな顔をした。
「あの……?」
「あ、あぁ。作戦会議か?」
「それは、えっとぉ……」
元ザフト軍人でも、いや、でも復帰したらしいし、助言をもらえたらそれはそれで嬉しいし……
迷いに迷って、ちらとレイを見ると、レイはさらりと答えた。
「別に軍事機密でもない」
ぱっとシンの顔が明るくなる。
「俺、インパルスに乗り込んで、まだ日が浅いんで、こうしてレイに動作の確認を手伝ってもらってるんです」
「勉強熱心だな」
「だって赤ですからね。俺達は」
レイに視線を送って、二人同時に微笑う。
それを見ながら、アスランは小さく呟いた。
「俺達は、か」
「え?」
聞きなおそうとするシンに、アスランは自嘲にも似た微笑みで言った。
「君達はいいな。同じで」
「同じって、全然違いますよ!? 俺、レイみたいに冷静じゃないし、こんな何考えてるかわからないような仏頂面じゃ」
「シン」
表情ではわからないが、少し怒気を含んだ声音。
「と、とにかく同じじゃないですよ」
「いや、同じだよ」
思い出すように。遠くを見つめて。
「同じ場所に、立っている」
その言葉の微妙な響きに、レイが反応して視線を上げる。
しかし、無理やり会話を終了させるように、アスランは片手を上げた。
「邪魔したな。頑張ってくれ」
「あ、はいっ」
シンも慌てて片手を敬礼の形に上げる。
いつの間にか立ち上がっていたレイも敬礼に片手を上げて、そして静かな声で言った。
「同じ場所に立てなくとも、同じものは見る事はできます。違うものしか見えないのなら、それを伝え合えばいいだけの事」
驚きにレイを見る。
そこには、強い意志を宿した海色の瞳。
「すべてを伝えきる事はできなくとも、相手の伝えたい気持ちを知る事はできます」
……まさか年下の者に諭されるとは。
アスランはふっと小さく笑って、
「そうだな」
もう一度敬礼を返してから、その場を離れた。
背中に、レイに質問を繰り返すシンの声を聞く。
それでも、「羨ましい」と思ったのは事実で。
「伝え合う、か……」
ここからでは声も届かない。
温もりも、感触も、何もわからない。
「キラに逢いたいな……」
自分は今ここにいていいのだろうか。
この赤い服は本当に自分の物なのだろうか。
けれど、キラならきっと、
『それが君の選んだ答えなら』
いつものように微笑んで言うのだろう。
賛成も否定もしない。
「逢いたい……」
呟きは誰にも届かず、空気に融けた。
同じじゃない。
似てるんじゃない。
でも違うわけでもない。
その視線の方向を知る事ができるのなら――
・・・and the end ××