個人的フェチズム(side-A) | Novels | 過去倉庫


『 個人的フェチズム 』




   ♪SIDE-ATHRUN




 ソノ 「瞳」 ガ スキ 。

 粉々に砕いた 紫水晶と翠緑玉。
 混ぜて溶かして 日に透かした 水。
 恒星のように自ら 光る。
 帯電した 薄空の雲。

 名前を呼ぶと。
 「瞳」が自分を見つめる。
 もう一度、呼ぶと。
 柔らかく微笑む。
 たった、それだけで。

 ドウニカ ナッテ シマイ ソウ 。


 自覚したのは、アノ時。


「見て見て!」
「何を?」
「これ! すごくない?」
 言って、キラが差し出したのは、水に洗われて丸くなった石。
 青やら緑やら、それに似た色の砂が混在する。
「……何がすごいの?」
「これ絶対宝石だよ! 原石ってやつ!」
 やっぱり。
「あのねぇ、キラ?」
 色素の薄い髪に付いた水滴を払ってやって、言う。
「こんな川に宝石が転がってるわけ無いだろ?」
「でもすっごいキレイだよこれ」
「綺麗でも、違うの」
 素っ気ない反応に気分を害したのか、キラは小さく口を尖らせた。
 水面から頭を出す、大きな岩の上に座る。
「キレイなのになぁ」
「はいはい」
 自分もその隣に座って、石を見せてもらう。
 詳しい知識はないが、その分素直に綺麗だと思う。
 日に透かしてみると、中で乱反射して光った。
「キレイだねぇ」
「そうだね」
「アスランの目の色みたい」
「はぁ?」
 思わず変な声を出してしまった。
「俺のこんな色かぁ?」
「ちょっと違うけど、緑の具合が似てるよ」
「そうかなぁ」
 もう一度日に透かして見る。
 自分の瞳をまじまじと見た事なんてあるわけがないから、結局よくわからないが。
「キレイだね」
「うん」
「アスランの目の事だよ」
「何それ」
 笑いながらキラを見ると、紫の瞳が覗き込むように見つめていた。
 とくん。
「僕、好きだなぁ」
 変な感じがする。
 よくわからない。
「じゃ、あさ、今度はキラの目の色、紫の石探そう」
 苦し紛れに、そんな事を言ってみた。
 キラは嬉しそうに、
「先に見付けた方が勝ちね!」
 と言って、岩から降りた。
 自分も水の中に降りて、言葉通り石を探す。
 紫に、緑を少し混ぜたような色の。
 あるわけないと思うけれど。
 ふと、手に持ったままの石を思い出した。
 綺麗、か。
 くす、と小さく笑う。
 その時。
 水の中に光る物が見えた。
 手を伸ばして、拾い上げる。
「あったぁ!」
「えぇ!?」
 驚いて振り返ると、キラが小さな石を掲げていた。
 さっきの岩の所まで戻って、見せてもらう。
「……キラこれ石じゃないし」
「あ、やっぱり?」
 それは水に洗われて丸くなった、ガラスの破片だった。
 結局石なのだが、この場合は認められない。
 ガラスはどうせ人工物だから、何色だってできるし。
 はぁ、と息を吐く。
「俺の勝ちだね」
「なんで!」
「ほら」
 丸いガラスを取って、代わりにさっき拾った石をその手に乗せてやる。
 まだ角の取れていない、紫と透明と、少しの緑を含んだ砂の集合体。
「僕のこんな色ぉ?」
「そうだよ」
「そっかなぁ」
 どこか不満そうなキラに笑いつつ、岩に座ると、キラもその横に座った。
 それを日に透かして、覗き込む。
「本当?」
「よく似てると思うよ」
 さっきとは立場の逆な会話が、可笑しかった。
「でもなぁ……もっかい、ちゃんとよく見てよ」
「石を?」
「違うよ。ほら」
 ずい、とキラが顔を近付けてきた。
 どくん。
 光を吸い込んだ、紫の瞳が迫る。
 後ろに引くと、追いかけるようにさらに近付いた。
「目、ちゃんと見て」
 内側に強い力を秘めた瞳。
 瞳、が。
「キラ! ほら、おばさんが呼んでるよ!」
「えぇ?」
「ほら!」
 遠くで声がしたのは確かだった。
 キラは面倒くさそうに岩から降りて、河岸まで行ってしまった。
 その背を見送りつつ、顔を押さえて息を吐く。
 心臓はまだ落ち着こうとしない。
 顔は、きっと耳まで赤い。
 手の中に残った、緑と、紫の二つの石。
 紫の。
「綺麗すぎだろぉ」
 言えそうにもないが。


 おおよそ世界の 美しいもの全てを 表したような。
 神に 愛されたような。
 全ての祝福を 受けたような。

 狂おしい ぐらい。


 ソノ 「瞳」 ガ スキ 。


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